有吉佐和子さんが,『婦人公論』の61年1月号から翌年12月号まで連載されたもの.文庫本で600ページを越える長編ですが,一気に読んでしまいました.『紀ノ川』と同じように紀州の旧家に生まれた女性を登場させて,明治から昭和までの時代と女性の生き方を描いています.「家」や「地主ー小作」関係などは職業柄理解できますが,着物だけはついていけません.生地や模様,縫い方,着方など,連載当時の女性たちには何の抵抗もなく,当たり前のこととして受け止められていたのでしょうか.学生たちからの提出物がなかなか届かないのをいいことに,本来電車内の読み物であるはずなのに,午後の半日を費やしてしまいました.
終章近くからの引用,
生きるということは,人の死を数々見送ることではないかと朋子はかねてから考えていた.(略)
生きるということは,身近な者の育つのを見守ることではなかったろうか.朋子は翻然としてそう考えていた.
有吉さんが若かったのだなぁと,妙に感じ入ってしまいました.「紀ノ川」も,当たり前のことながらフィクションですが,『香華』はそれ以上に「物語」として楽しめる読み物であるとおもいます.秋の夜長,できればコタツに入ってドテラなどを羽織って読むのにふさわしいかと.